【検証】「スシローペロペロ事件」で少年に「168億円の賠償責任」を問うことが無茶すぎるワケ

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【検証】「スシローペロペロ事件」で少年に「168億円の賠償責任」を問うことが無

茶すぎるワケ

 

 

日本人はいつもニュースを最初から最後まで読んでいます。

回転寿司チェーン大手「スシロー」で、高校生の少年が醤油ボトル、湯呑み、寿司に唾液を付着さ

 

 

 

せた事件について、どのような法的責任が問われるのか、とりわけ賠償額がいくらになるのか

が、

 

 

話題となっています。本記事では、一切の感情を排し、少年が問われる可能性のある法的責任の中

身について、刑事責任と民事責任に分けて解説します。

 

 

民事責任(賠償責任)はどこまで問えるか?

まず、民事責任については、民法上の「不法行為責任」(民法709条)が問題となります。

 

 

民法709条の条文にあてはめると、「故意」によってスシローの「権利または法律上保護される利

益を侵害」し、これによって何らかの「損害」が発生したこと自体は明らかなので、不法行為責任

 

 

 

が成立することは争いありません。

問題は、「損害賠償の範囲」です。すなわち、少年の一連の行為と事実的因果関係が認められる損

 

 

 

害のうち、どこまで賠償の対象とするべきか、ということです。

この点については、判例・通説上、「相当因果関係説」という考え方が採用されています(民法

 

 

 

416条参照)。つまり、社会通念上、「通常生ずべき損害」といえるかという規範的評価が行われ

るのです。

 

 

◆損害賠償責任はどこまで負うか

醤油さしや湯呑みを買い替えたこと、店内の設備を掃除したこと、店舗のスタッフや社員が対応に

追われたことについては、明らかに「通常生ずべき損害」といえます。

 

 

 

では、今回の件を受けて再発防止のためオペレーションを変更しなければならなくなったとすれば

どうでしょうか。これは、衛生管理を強化するものであり、「損害」というよりも「改善」のため

の支出ということになります。「通常生ずべき損害」と評価することは難しいと考えられます。

 

 

 

また、今後、今回の事件のせいで客足が遠のき売上が減少したという事実が証明されれば、それ

も、「通常生ずべき損害」に含まれる可能性があります。現に、「もう回転寿司屋へは行けない」

といった声も聞かれます。しかし、そういった声があることが、売上の減少につながるかどうか

 

 

 

は、現時点では明らかではありません。

◆「株価下落」について責任を問えるか?

なお、一部で、スシローの運営会社「株式会社あきんどスシロー」の持株会社である「株式会社

 

 

 

FOOD & LIFE COMPANY」の株価下落により同社の時価総額が下落したことをさして、168億円の

賠償責任が発生するのではないかという見解が、まことしやかに喧伝されています。

しかし、この点については、因果関係の有無を吟味する必要があります。つまり、上述した「通常

 

 

生ずべき損害」といえるかどうかということです。

ただし、その前提として、「事実的因果関係」がなければならないのはいうまでもありません。

「事実的因果関係」すらあやしい…

 

 

 

それでは、「事実的因果関係」は認められるでしょうか。

動画が拡散されたのは1月29日(日)なので、その前の1月27日(金)以降のスシローの株価の「終

値」の動きを確認してみると、以下のように推移しています。

 

 

 

【株式会社FOOD & LIFE COMPANYの株価(終値)の動き(2023年1月27日~2月9日)】

たしかに、株価は1月30日から2月2日までで133円下落しましたが、その間も2月1日にはいったん58

円上昇しています。また、2月3日以降は上昇に転じ、2月9日(木)時点での終値は3,220円と、事

 

 

 

件前よりも高水準になっています。

さらに、「 Yahoo!ファイナンス 」で2022年9月以降の値動きを確認すると、同年9月1日に2,070円

だったのが、上昇と下落を小刻みに繰り返しながら、上昇してきているという大まかな傾向がみら

 

 

 

れます。その流れのなかでは、1月27日~2月3日の動きは一時的かつごく軽微なものと評価せざる

を得ません。

ましてや、その値動きに対し、少年の行動がどの程度の影響を与えたのか、立証することは事実上

 

 

 

もきわめて困難です。

「相当因果関係」以前に、「事実的因果関係」の立証すら、あやしいということです。

刑事責任はどうか?

 

 

 

少年の刑事責任については、実際問題として刑事裁判にかけられることは考えにくいものの、一

応、どんな犯罪が成立しうるか確認しておきます(あくまでも一応です)。

一連の行為について「威力業務妨害罪」(刑法234条)「器物損壊罪」(刑法261条)の2つの犯罪

 

 

 

に該当する可能性があります。

「威力業務妨害罪」は、少年の行為によって、スシローが醤油ボトル、湯呑み、回転レーン等の清

掃等の余計な業務を強いられたことについて成立します。

 

 

 

なお、「業務妨害罪」には「威力業務妨害罪」のほか「偽計業務妨害罪」(刑法233条)がありま

す。「威力」と「偽計」の区別については、近時の通説は、「公然と行われた」場合が「威力」、

「非公然で行われた」場合が「偽計」としていますので、それに従います。

 

 

 

次に、「器物損壊罪」については、唾液を付着させられた寿司が売り物にならなくなったことが該

当します。なお、店の備品である醤油さしや湯呑みを買い替えなければならなったのであれば、そ

れも該当します。

 

 

 

いずれにしても、刑法上問題となるスシローの損害は軽微なものといわざるを得ず、かつ、業務妨

害罪や器物損壊罪で少年が刑事裁判にかけられることは考えにくいといえます。

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